経度への挑戦

経度への挑戦 : 一秒にかけた四百年 / デーヴァ・ソベル著 ; 藤井留美
東京 : 翔泳社, 1997.7
205p ; 20cm
ISBN:4881355058 ; 本体\1500
ポイント:記入記述においては転記の原則により「デーヴァ・ソベル」のまま。著者標目においては「ソベル, デーヴァ」となる。

石田豊さんに勧められて(いや、ただ彼の文章を読んだだけですが。http://www.pot.co.jp/gotogi/8-7.html)、松本市立図書館に所蔵があったので借りて読みました。
これは17〜18世紀のヨーロッパ、主にイギリスを舞台にした、「プロジェクトX」みたいなものです。「プロジェクトX」ほとんど見たことないのに書いてみました*1
重商主義の時代、大量の富をもたらす海洋貿易が国家の一大事業だったわけですが、海運の安全のためには、船上で正確な緯度経度を知ることが欠かせません。
緯度を知るには、北半球なら北極星の角度を知ればよい。これは比較的古くから知られていました。
では経度は? 時計を2個用意して、1個は基準地点(たとえばグリニッジ天文台)に合わせておく。そして、もう1個を観測地点の時刻に合わせる(太陽の南中などを使う)。両者の時差から経度を求めることができます。
しかしこの方法には前提として、前者の時計が常に正確である必要があります。時計が1分ずれると経度にして15分(1/4度)の誤差が生じます。これは距離に換算すると、たとえばロンドン(北緯51度30分)付近ではおよそ18kmの誤差になります。そして、当時の時計というのは、基本的に振り子時計。船の揺れ・寒暖の差・気圧の変化によって狂いまくります。10分20分は当たり前。これでは正確な経度など知りようがありません。当時は正確な経度は、ほぼ測定不能と見られていました。スウィフトのガリヴァー旅行記では、経度測定法は永久運動や万能薬と同じ程度にできそうもないこととして書かれています*2
しかし、自船の位置を見失うことでの海難事故というのが絶えず、それによる人命や財産の損失は国家にとって由々しき問題でした。イギリスは正確な経度の測定方法に賞金まで出すことにしました。
先述の理由から、「狂わない時計」という方面からのアプローチには限界があるとみられ、月の運行によって測定する天文学的な方法が主流になろうとしていたのですが、そこで1人の時計職人が、狂わない時計への挑戦を始めて、みごとそれを成し遂げるというまでの物語です。親子の絆あり、ライバルの天文学者からの妨害ありと、ドラマとしてもなかなか面白いです。ちなみにこの時計はイギリスの博物館に現存しています。

*1:広島カープの回だけ見た

*2:岩波文庫版 p292