職業欄はエスパー

職業欄はエスパー / 森達也[著]
東京 : 角川書店, 2002
396p ; 15cm. - (角川文庫 ; 12623)
注記: 「スプーン : 超能力者の日常と憂鬱」(飛鳥新社 2001年刊)の改題・文庫化
ISBN:4043625022 : 本体\781
著者はフリーのテレビディレクターで、オウム真理教の信者を取材したドキュメンタリー映画『A』『A2』、放送禁止曲に関するドキュメンタリーとそれをもとにした著書『放送禁止歌』などで有名な方です。本書は、スプーン曲げやダウジングといった、「超能力者」を職業とした3人の男のドキュメンタリー番組を制作する過程を描いた、ノンフィクションです。

世間の人々からすると、ちょっとは思うところはあるけれど、議論になると面倒だし、蓋をして触れずに済まそうとしていること。そんな題材を、蓋をしないでもう一回考えてみようよ、みんなのイメージと事実との間には、意外とギャップがあるよ、というのが一貫した著者の姿勢だと、私は解釈してます。
世間の人々、なんて書きましたけど、私だってそうですし、著者が特に意識的にターゲットにしているのは、マスメディアです。自身、マスメディアの中で仕事をしていながら、この姿勢を貫くのは勇気も苦労も相当なものでしょう。
本書ではもちろん、数々の「超能力」が登場し、著者自身も何度も、スプーンが曲がる瞬間や隠されたものがダウジングで発見される瞬間を、肉眼で目撃しています。その記述に嘘や作為は、私には感じられませんでした。少なくとも、本書を読んだ上で、「これは本物だ」とも、「嘘に決まってる」とも、断定するほどの勇気はありません。
本書の中で、著者は「信じる・信じない」の二者択一を、自問も含めて幾たびも迫られ、そのたびに躊躇し煩悶します。著者の真意とは異なると思いますが、私も似たような感覚を持ちました。
「信じる」というのは能動的な行為で、それはそれでいいです。しかし「信じない」というのは、字義から言えば「信じる」の補集合であって、それ自身は積極的な意味は持たないはずなのですが、なぜかこういった議論(UFOとか神とか)においては、「信じない」と言うと、「疑う」あるいは「否定する」の意味に取られることが多い気がします。AとnotAとの和は全体集合になるわけで、notAの中には、「否定する」ももちろん入りますが、「信じるわけではないけど否定する材料もない」というのも、本来は含まれていいはずなのですが、それを「信じない」というと誤解されるので、いちいち説明しなければならない、という、そこらへんがちょっと違和感というか。うーん、なんかまとまらんです。