ヨコハマメリー

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松本CINEMAセレクトの上映会にて。私が見た中では初めての満員で、補助席が出るほどの入り。
白いドレスに白塗りの顔で、横浜伊勢佐木町にいた老婆「メリーさん」。娼婦であったという彼女をとりまく人々の証言を通して、メリーさんという個人にとどまらず、横浜という街の歴史や記憶といったものが描き出されていきます。それは語り手から見た一面的なものかもしれませんが、それでも確かにそこにあったもの。この映画に登場するそれぞれの人物がいなかったら、あるいは、この映画がなかったら、誰にも知られることなく埋もれていったであろう歴史がここにはあります。
なかでも見どころは、この映画のもうひとりの主人公である、シャンソン歌手の永登元次郎との交流。メリーさんを他人とは思えないと語る彼の人生は、確かにメリーさんと重なるような部分があります。彼自身、この映画の撮影時にはすでにガンに冒されており、クランクアップ後の2004年に亡くなっています。メリーさんが横浜を去り、彼もついに入院し、それを経てのラストシーンで彼が歌う『マイウェイ』は胸を打ちました。
ところで、出てきたエピソードの中で、エイズが問題になったころ、行きつけの美容院が、他の客からのクレームに耐えかねてメリーさんを断ったという話がありました。また、メリーさんが郷里に帰ったという1995年には、地下鉄サリン事件でオウムバッシングが一気に高まり、のちに信者の転入拒否や家族の入学拒否という出来事も起こります。社会には、メリーさんのようなひとの居場所が、だんだん無くなっているのではないか、そんなことも考えました。